月とタバコ

本の感想とかもろもろ

10冊目 未必のマクベス

ハヤカワ文庫で刊行されている、早瀬耕さんの「未必のマクベス」を読みました。ハヤカワ文庫ってSFのイメージしかなかったから、読んでいる途中から「これはSF?というよりハードボイルド?社会小説?」というほど、SF感は無し。そのおかげというか、SFへの抵抗感が多かった自分にとっては、すらすらと約600ページを読み終えてしまったところ。

 

お話は、順調に出征街道まっしぐらの主人公中井が、出世コースからどうやら左遷および会社の裏側を知る側にになってしまい、会社から秘密裏に命を狙われていくことになるという。そして、そのキーパーソンが20年前に恋をした同級生。恋もキャリアもキーは彼女という。まさかなお話。

 

主人公の中井が自分の金に物を言わせてガンガンできることやっているさまが潔い感じで好き。その一方で圧倒的に喰えないやつで、冷血漢という言葉が似あうくらい冷静で少し怖い感じ。キーとなる彼女がどのように出てくるのかを楽しみつつ、読み進めていく感じだろうか。主人公の進退についてはあらかた予想通りという印象。

 

読んでて感じたのが、私もサラリーマンですが、サラリーマンが好きな小説かもしれない。仕事はできて、女性にはモテて、ドレスコードもしっかりしていて、頭のキレもなかなか。少し抜けている部分があって、それは一つのスキとして長所になる。できる男の見本みたいな話で、たぶんあこがれる人は多い思う。日経新聞のレビューとかにも載ったみたいだから、そういう人は好きなんだろうな。

 

1回読めば個人的には十分。面白かったけれど。

 

 

未必のマクベス (ハヤカワ文庫JA)

未必のマクベス (ハヤカワ文庫JA)

 

 

9冊目 よるのふくらみ

窪美澄さんの「よるのふくらみ」という小説を読みました。300ページ弱の小説なのに、読むのに時間がかかったのは、完全に私の読書体力の衰え。どうでもいいですが。

 

U-18小説とかに該当するのかしら。29歳になる女性「みひろ」が、結婚の約束をした幼馴染のパートナー圭祐と一緒に暮らして2年になるのだけれど、セックスがそこにない。セックスレスな状態。みひろはしたい気持ちがあるのだけれど、圭祐には身体の問題が・・・。そこに圭祐の弟が介入してきてややこしいことに。

 

愛とセックスの関係性についての小説だと思うんだけど、愛=セックスではないという簡単な話ではなくて、愛の一部にセックスが含まれているのかな?と読んでいて感じたところ。セックスがあれば充実度が増すのかもしれないが、あくまでそれだけのものであって、それがすべてではないということ。セックスが無くても愛し合うことはできるし、その当事者の形があるということ。ひとそれぞれと言えばそれまでなのかもしれないけど、でも本当にそんな感じ。お金と一緒かなとも感じた。あるに越したことはないけれど、なければ不幸せ?というとそうともいえない。ただ、かなり不便であったり不満は出るのかもしれないが。

 

途中、圭祐の弟が里沙さんと最後の夜を過ごすシーンがあるのだけれど、私はそこでジーンときてしまった。お互いがお互いを思って別れる瞬間って、こんなにも切なくて、どうしようもないものなのかって。

 

あと弟の不動産関連で住んでいた川島さんだったかな?(調べる元気はない)その人は奥さんに逃げられてしまい、体調崩して入院するシーンがあるのだけれど、その際に「女性はただ相手をしてほしい、話を聞いてほしいっておもってる。それくらいかまってやれないんじゃだめだ」みたいなこと言うんですね。たぶんかなり違うんですけど。でも、もともと傍にいたい。近くにいたい。ただ一緒にいたい。それで結婚したり、付き合っているのに、仕事や外部の干渉で溝ができる。一緒にいるだけですら難しいこの世の中って・・・って思ってしまった。

 

主要メンツについてはそこまで。みんな各々の立場で物語がすすむから、各々の気持ちが分かるし、一方で誰かが悪いとも言えない。もしかしたら女性が読めば、批難の矛先は同じ女性の「みひろ」かもしれない。乗り換えみたいになってるしね。でも、悪いとは思えないんだよな・・・。むしろ切ない。

 

大きくネタバレをしたくないので避けますが、結局みんなそれぞれの道を歩むことになる。おそらく誰しもが、小さな十字架背負って歩むことになる。幸せになるかは不明だけど、新しい道を歩めたことが大事なんだと思う。

 

 

よるのふくらみ (新潮文庫)

よるのふくらみ (新潮文庫)

 

 

8冊目 ロスト・シング

オーストラリアの絵本作家ショーン・タンの「ロスト・シング」という絵本を読みました。ショーン・タンという名前は知らないという人でも、絵本「アライバル」をご存知の方はおそらくいらっしゃるはず。「アライバル」を書いたショーン・タンのデビュー作に当たるのが本作「ロスト・シング」です。

 

お話は赤い変な無機物と有機物の間のような、存在を認知されていない生物?がひとり迷子になっているのを主人公の男性がみつけて、戻る先を探すという話。途中廃品回収場所みたいなところに一度連れていくも、結果このなぞの生命体?が喜びそうな場所を見つけて帰るべき場所が見つかってよかったね。って話。これだけ綴っているとつまらなそうだけど、そんなことはない。お子様にはインパクト欠けるかもしれないが、大人はちょっと感じることがあると思う。

 

というのも、訳者があとがきでテーマが「帰属」や「帰るべき場所」という風に述べている。それを踏まえて読むと、迷子になっている生命体は、迷子ではなく、帰る場所が奪われた可能性もある。帰りたくても帰れない。この子にとっ本来所属している場所、学校・会社・家庭・なにかしらのグループ・・・。そこからはぐれてしまったと読み取ることができる。そう考えると、決して元々の場所が帰るべき場所である必要はなく、自分に適した場所を見つけることが大事なのではないのか?そういうことを示唆しているように思えた。

 

絵本のいいところはメッセージを大々的に示さず、ソフトに示してくれていること。そして希望をふんわりもたせてくれること。そう感じた。

 

絵のタッチが緻密で好きだけど、アライバルのほうがもっとすごかった記憶がある。

 

 

ロスト・シング

ロスト・シング